黒い犬
あんまりかたらないほうがいい人、会ったこともあんまり思い出したくないような人っていませんか、こういう表現しかできないのだけど、とにかくそういう人のことでもやたら覚えてることがあったりして その人は車を運転している時、目的地に着くまでどれだけ眠くても途中で寝たくないと言っていて、そこだけすごく共感した。 母方の実家が北海道の帯広にある。 帯広というところはすごく田舎で、むかしから夏休みや冬休み、長い休みのたびに帰っている。 ここは昔からそんなに街並みが変わっていないような感じがする。 年に一回くらいしか来ないので、そんなに記憶が更新されないというか、 20 年経ってるのにいた時間は一年くらいだから、最近のことに感じるというか、そんなこともあるんでしょうか、ちょっといいすぎかもしれないけど、そういう感じがする。 祖母はよく喋る、焼肉を食べながら昔飼っていた犬たちの話をしていた。逃げたり、戻ってきたり、盗まれたり、犬の人生はむかしの方が波瀾万丈かもしれない。 祖母の家の隣にはむかしシマジロという犬がいた。北海道なのに外で飼われていて、大きくて黒い犬だった。細長いコンクリートのスペースの真ん中あたりにシマジロの犬小屋があって、長い鎖が繋いであるので、シマジロはそのスペースの中を歩くことができた。 あまりきちんと世話されているように見えないシマジロに祖母や近所の人はエサをあげたり毛布をあげたりしていた。 僕らも帯広へ行くと、さわったり追いかけられたりして遊んでいた。こちらも子供だったから、追いかけられると結構怖くて、ゆっくり過ごすようなこともなかったから、あまり朗らかな時間ではなかったように思う。 シマジロの飼い主は杜撰で、結局とうとう飼いきれなくなった。保健所へ連れていこうとしたのを周りがひきとめ、なんとかもらい手がみつかったらしい。 今頃はきっと死んでしまっているだろうと、祖母は言っていた。祖母の話はあんまり聞いていないけど、これだけは覚えておかなくてはと思った。自分の人生に関わる犬たちのことを忘れてはいけない。 自分は、シマジロに対してあまりやさしさを向けていなかったと思う、 よくわからないけど、あの頃の自分にとってシマジロは、友達とか家族というものとは結びつかなかった。なぜか隣にいる、ただの 1 匹の犬でしかなかった。 シマジロがどういう性格の犬だったのかも、結局