投稿

1月, 2022の投稿を表示しています

あの人はいま

イメージ
  車を買うことになった。 遡って小学校 3 年か 4 年生の時、新しい社会の先生が来た。雰囲気が悪い、という謎の理由で最初はみんなから嫌われていたんだけど、しばらく経つとわかりやすいとか実はいい人だみたいな感じですぐに人気者になった。たしかに授業はわかりやすいし性格もいい人で、自分もその人のおかげで日本の都道府県を覚えたし、その人がほかの学校に転勤してしまう時のお別れのスピーチで、僕はここにいる全員を授業で指したことがあります、と全校生徒に向かって言っていてなんだかよくわからないけどすごいなと思ってきいていた。その人は雑談も割と面白くて、テレビでアナウンサーが僕は〜〜って伸ばして言っていて怒られていた話とか、学校に来る途中の車で、親切に道を譲ってもらい、お礼のつもりでクラクションを鳴らしたら、古い車だったのですごく不細工な音が鳴り恥ずかしかったという話とかをしてくれた。話もうまかったんだと思う。  自分がたいして運転もうまくないのになんで車に乗るのがすきかというと、この歳になってやっとそういう人たちといろいろな瞬間を共有できるからなのかなと、車を買う時になって思ったという話です。

がんばれ水

イメージ
 家 の近くに気温を知らせる塔がある。 散歩途中にあるのでいつもちらっと見る。その日はお風呂上がりで身体が温まっていたのもあり、気温が 0° ぴったりだったのを見て、こんな程度で水は氷になってしまうのかと思った。

学生寮からスケートリンクまで

イメージ
  このあいだの文章から少しつながり 浪人生の時の話、コンクールという立派な名前のろくでもないイベントのために僕ら田舎の受験生ははるばる東京へ行かなきゃいけない。 それで泊まるところを探すのだけど、東京の予備校の最後の良心によって、一泊だけ無料で近くの学生寮に泊まれることになっていた。一泊だけ。寮はいくつか候補があって、違いが分からなかったので空いているところに決めてもらった。だれもいない日本画の教室で、モチーフの花とか見ながら電話をかけたのを覚えている。当日、ろくでもないコンクールは長引き、学生寮に向かうのは予定よりかなり遅い時間になった。駅から近いときいていたのに、全然近くない。東京の悪口を言いながらまったく知らない夜道を歩いた。 こんなにも知らない街で生活があることに気持ちがざわざわして、ぼんやりした夜に、このままこの街に溶け込んでしまいそうな、それくらいなんというか生活感のある道のりだった。いかにも迷いそうな道でしっかりと道に迷い、今どこですか、大丈夫ですか、という電話がかかってきたりしながらやっとのことで寮にたどり着いた。  ふだんから住んでいる学生たちはとっくに食事を済ませていて、たった一人の寮長さんがひとり分の食事を残して待っていてくれた。寮長のおじさんはよく話すおじさんで、少し会話しながら夕飯を食べた。 食堂にはクリスマスツリーが飾られていて、でもそのツリーはなんとなく乗り気でないような雰囲気だった。なんていうか、いまいちだれも協力的でないというか、そういう感じが滲み出ていてかなしかった。 ひと通りの説明をしてもらい、寮長さんはそのあとひとり、小さいテレビでアイススケートの大会をつけていた、自分はそれを見ていてなんだかすごく心細い気持ちになってしまった。こんなに遠くのさみしいところで華やかなスケートを見ていたら、寂しがりなこのおじさんはだめになってしまわないだろうかと勝手に心配した。 この寮もすごく入る人が減っているらしい。もし大学に合格したら、ぜひうちの寮に入ってくれないかと何度も言われた。行きたい大学からは明らかに遠いし、できれば一人暮らしがしたかったけど、このおじさんを悲しませてはいけないと思って、笑うしかなかった。 次の日の朝その寮を出るときは すごく寂しかった。朝は少し駅が近く感じた。寝坊したので走った。 コンクールは全然だめだった。 寮の

飛行機をのがすまで 後編

イメージ
  最近のカプセルホテルは安いし清潔なのでたのしい。早めについて、早起きの恐怖に怯えながらもごろごろしていた。早起きは恐怖に近い。小学生の頃から苦手で、学校はほぼ毎日のように遅刻していた 。家庭訪問で先生が家にきた時に、先生がこの家にも時計があるんですねと言ったのをうちの親はいつまでもおもしろい話として自慢し続けている。 これでもし寝坊したら飛行機を一度に二本も逃してしまうことになってしまう 、正月からそんなことあっていいのかと思いつつ、ゾンビの映画を見たりしていた。 で、どうなることかと思いきや、スッキリではないもののなんとかちょうどいいくらいに起きた。カプセルホテルなので朝早くに近くを誰かが通る音が聞こえて、それでなんとなく目が覚めた。誰だかわからないけど感謝しなくてはいけない。ありがとう。 正月といえど今年もうこれ以上早く起きることはないんじゃないかくらい早く起きたので、いざ目が冴えてくると、だんだん優越感みたいなものに変わってくる。思い返せば小学生の時も、一年に一回くらい奇跡のように早く目が覚める日があって、その日は誰よりも早く学校へ行って誰もいない教室で優越感に浸って満足していたりした。 それできょうはせっかくだから朝マックでも食べちゃおうかななんて思っていたのに手続きを済ませたら意外とギリギリになってしまった。 ギリギリというのはマックが食べられるかどうかのギリギリで、普通に向かえば間に合う。 でももう口がマックになってしまっているので、仕方なくマックへ向かいました。 しかしこれでまた遅れてしまったら空港の人も、この人は新幹線が遅れたと言っているけど本当は昨日もこんな感じでダラダラしていただけなんじゃないかと思われてしまうのがおそろしく、ここはなんとか急いで食べねばと思い、間に合うことができました。他の飛行機では今日も時間にルーズな人の名前が呼ばれたりしていたけど、自分が乗る帯広行きの飛行機はわりと時間前にちゃんとみんな揃っていて、自分が最後にならなくてよかったと心から安心した。 まあそんなに大した事件でもないんですけど、時間があったので暇つぶしに書きました。 追記 飛行機をおりて歩いている途中で、虫歯ができたことに気づいてしまったり、帰りは終電逃したり、今年の悪運はまだおわらない、、

飛行機をのがすまで 前編

イメージ
  何年か前に行った占いで、 2021 からは運が良くなると言われた。その時はまだあと数年あるのかと思っていたけど、やっとこの時が来た。ただしそれは 4 月からの話であって、 3 月まではむしろラストスパートとばかりに悪運がたたみかけてくるんじゃないかみたいなことを考えていた大晦日。 それで 1 月 1 日。羽田空港に向かうために乗っていた新幹線が、とまった。この寒い冬に、雪かと思いきやでもなくビニールが絡まったというよくわからない理由。 これはちょっと大丈夫かなと嫌な予感がする中、景色と怪獣のことを考えたりしていた。 だんだん不穏な空気が漂うなか、なんとかマンがくるのかな、とかいうまぬけな子どものつぶやきにちょっとイラッとして、よく考えたら自分もさっきまで怪獣のこととか考えてたなと思いつつ、結局新幹線は 3 、 40 分ほど遅れ、情けないほど全然間に合わなかった。駅員さんは、 50 分遅れということにしてくれた。より仕方がない感が増した気がする。 そう、たしかにいろいろと予想してもうちょっと早めに出てれば間に合ったのだ。 30 分だともうちょっと早く出てきてくださいよという感じになってしまうかもしれないけど、 50 分も遅れたなら仕方ないか、かわいそうにという感じに見える。 そういえば結局、新幹線の状況ことはあんまり調べなかった。生活の中では、情報を得る時期と得ない時期のムラがあってもいいような気がする。 とにかく空港につき、仕方がないので全然つながらない電話をかけたり、全然進まない行列に並んだり、ソファーに座ったりしながらなんとか、飛行機を明日にかえてもらった。空港では間に合っていない人の名前がフルネームで呼び出されており、自分もこのように呼ばれていたのかと思うと、だらしなさをみんなの前で言われているようで非常に恥ずかしい。 きょうはホテルでゆっくりと思いきや、空港の人は苦笑いしながら、明日は遅くとも朝 6 時くらいには来てください、と言った、、 続く

歩いた日

イメージ
   撮れているかわからないカメラを持って、足が動かなくなるまで歩こうと思った日の写真。  朝は暗いうちに出ようと思ったのに寝坊して、明るくなりはじめた時間に家をでた。明るくなりはじめる時間は、空気も澄んでいる感じで、肺がすっきりしてコンビニに入りたくなったりする。  やたら色の黒い清原みたいなおじさんが立っていたり、学校の横に墓場があったり、窓のない家があったり、ケンタッキーとマクドナルドとモスバーガーが並ぶ夢のような場所があったり、聴いてたラジオの内容も、すごく覚えている。  ひとりで歩いて行った場所のことはあんまり忘れない、入ってくる情報量が違う。 アメリカも京都も受験の時も。  町田までいって、公園で少し休んで帰った。最後は足を引きずって歩いた。前の日ドキドキしていて寝不足だったので帰ってすぐ寝た。 だいたい 6 時間くらいかかって帰ってきた時、家の近くになぜか小さい蟹がいた。

神を信じるなら

イメージ
  何人 ( なにじん ) かわからない、ロイなんとかという人から定期的に、ひと月に一回くらいメールが来る。迷惑メールにしてはずっと名前が同じだから、またこの人かと名前を覚えてしまった。友達みたいな挨拶からはじまり、綺麗な風景の写真の載った PDF が添付されていたりする。けっこうまめなやつ。次来たら一回ちゃんと読んでみる。 むかし、神隠しを起こしたことがある。 よくおもちゃを買ってくれる知り合いの先生がいて、その日もその人はうちにきていて、だけど僕はその日は塾に行かなきゃいけなかった。 なので先生には塾が終わるまで待っててと無理なことを言い、帰ってくると当然先生もいなくなっていた。 子どもは怒る。そして拗ねる。拗ねて、うちの店の 3 階の、事務の人が座る椅子と机の下の間のところ、足を入れる空間にすっぽり入って、体育座りする格好で隠れた。それでそのまま寝てしまったことが、はじまりだった。起きたら電気は消えていて、誰もいなくなっていた。非常口の明かりで薄暗い中で、神様を信じていた僕は、下に降りろと神様に言われた気がして、 ( 言われていなくても降りるしかなかったけど ) これはしまったなと思いながら下に降りていった。 一階には祖母と弟がいて、ちょうど祖母が弟に、お兄ちゃんはいなくなってしまったんだよ、と言っているところだった。そこにどこからともなく自分が登場して、それがおわり。 そこからはあんまり覚えていなくて、あんまり怒られた記憶もない気がする。いなくなっていたのは多分数時間なんだけど、大騒ぎになっていて、警察にも連絡され、近所の人たちからの情報を募ったりしていたらしい。隠れていた時間に近くの通りを歩くのを見たなんていういい加減な情報もあったりした。 でもあんまり当事者の自覚もなくて、ちょっとおもしろがっていた。 次の日友達の家に行ったらちょうどうちの親がお詫びの品を届けに来ていて、それを一緒に食べたりしていた。思い出すとゾワゾワする話。