学生寮からスケートリンクまで
このあいだの文章から少しつながり
浪人生の時の話、コンクールという立派な名前のろくでもないイベントのために僕ら田舎の受験生ははるばる東京へ行かなきゃいけない。
それで泊まるところを探すのだけど、東京の予備校の最後の良心によって、一泊だけ無料で近くの学生寮に泊まれることになっていた。一泊だけ。寮はいくつか候補があって、違いが分からなかったので空いているところに決めてもらった。だれもいない日本画の教室で、モチーフの花とか見ながら電話をかけたのを覚えている。当日、ろくでもないコンクールは長引き、学生寮に向かうのは予定よりかなり遅い時間になった。駅から近いときいていたのに、全然近くない。東京の悪口を言いながらまったく知らない夜道を歩いた。
こんなにも知らない街で生活があることに気持ちがざわざわして、ぼんやりした夜に、このままこの街に溶け込んでしまいそうな、それくらいなんというか生活感のある道のりだった。いかにも迷いそうな道でしっかりと道に迷い、今どこですか、大丈夫ですか、という電話がかかってきたりしながらやっとのことで寮にたどり着いた。
ふだんから住んでいる学生たちはとっくに食事を済ませていて、たった一人の寮長さんがひとり分の食事を残して待っていてくれた。寮長のおじさんはよく話すおじさんで、少し会話しながら夕飯を食べた。
食堂にはクリスマスツリーが飾られていて、でもそのツリーはなんとなく乗り気でないような雰囲気だった。なんていうか、いまいちだれも協力的でないというか、そういう感じが滲み出ていてかなしかった。
ひと通りの説明をしてもらい、寮長さんはそのあとひとり、小さいテレビでアイススケートの大会をつけていた、自分はそれを見ていてなんだかすごく心細い気持ちになってしまった。こんなに遠くのさみしいところで華やかなスケートを見ていたら、寂しがりなこのおじさんはだめになってしまわないだろうかと勝手に心配した。
この寮もすごく入る人が減っているらしい。もし大学に合格したら、ぜひうちの寮に入ってくれないかと何度も言われた。行きたい大学からは明らかに遠いし、できれば一人暮らしがしたかったけど、このおじさんを悲しませてはいけないと思って、笑うしかなかった。
次の日の朝その寮を出るときはすごく寂しかった。朝は少し駅が近く感じた。寝坊したので走った。
コンクールは全然だめだった。
寮の話は誰にもできずに家に帰った。
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